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【Photoshop】星野写真における微光星を抑えるテクニックまとめ

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こんにちは。

主にカメラレンズを用いた広角~中望遠くらいまでの焦点距離での星野写真の画像処理では、微光星の除去が1つの大きな課題になります。

微光星とは、星空を追尾して撮影したときに非常に小さく(~数pixel)かつ暗く写る星のことです。



星野写真にはこの微光星が無数に存在していて、画像を強調していくとその星々がどんどん表に出てきます。

それは広角星野写真ほど顕著で、このままだと主題となる天体よりも微光星のほうが目立ってしまいます。

今回は、この微光星を目立たなくするPhotoshopを用いた処理テクニックを4種類紹介したいと思います。

StellaImageのスターシャープやPixInsightのMorphologicalTransformationといった天体写真専用の画像処理ソフトで提供されている機能でも微光星を抑制できますが、Photoshopの汎用的な機能のみでも類似の効果が得られることを知っていただけたら嬉しいです。

解説に使う画像はこの前撮った冬の天の川の広角星野写真です。

冬の天の川は微光星が非常に多く、画像処理で苦労する対象筆頭です。
Winter Milkyway
F2.8, 180s*81(total 243min ), ISO1600
Nikon D810A + Sigma 40mm F1.4 DG HSM | Art + Unitec SWAT-350
2019/11/29 日光戦場ヶ原
この完成済みの写真はこれから紹介するテクニックを(全てではないですが)使って処理しています。

今回は微光星処理前の画像を使って、各種処理を施していこうと思います。

「明るさの最小値」フィルター

最初は、明るさの最小値フィルターを使った方法です。

この方法は、微光星抑制の手法の中では最も広く知られているのではないでしょうか。

明るさの最小値フィルターは [フィルター]→[その他] の中にあります。



半径:~数pixelで画像に適用します。pixel数が大きくなるほど強い効果がかかります。

保持:は「真円率」にします。

フィルターをかける前とかけた後の比較です。今回は半径0.4pixelにしました。


ベテルギウス付近を拡大した比較GIFです。


明るさの最小値フィルターは一般的な画像処理の用語ではモルフォロジー変換といい、周りで最も暗い画素値に置き換えるという処理です。

冒頭で少し名前を出したStellaImageのスターシャープやPixInsightのMorphologicalTransformationもモルフォロジー変換のアルゴリズムをベースに天体写真用にアレンジを加えた機能だと思います。

微光星の輪郭を、その周りの背景宇宙の明るさに置き換えるということでまさに微光星を削って小さくするような効果が得られます。

ただしその分画像に与えるダメージも大きく、大きな半径値でかけると近くの微光星同士が合体してしまったり、スタンプをたくさん貼ったような斑点模様が発生してしまいます。

明るさの最小値フィルターを1.0 pixelでかけた画像を拡大したもの

また、画像全体で輝度や色が変化し、画像全体が暗くなることにも注意が必要です。

僕はこのようなダメージが後の処理に影響することがないように、明るさの最小値を使う時は画像処理の終盤でかけるようにしています。

「ハイパス」フィルター

次に、ハイパスフィルターを使った方法です。

こちらは以前Twitterに動画で手順を投稿したらRTやいいねがたくさんついて結構反響がありました。
まず、画像のレイヤーを複製します。

その後、複製したレイヤーに対してハイパスフィルターを半径 : ~数pixelで適用します。ハイパスフィルターは [フィルター]→[その他] にあります。



ハイパスフィルターを適用したレイヤーのブレンドモードを「ソフトライト」に変更します。



トーンカーブレイヤーを立ち上げ、ハイパスフィルターを適用したレイヤーのクリッピングマスクにします。



下のようにポイントを打ちます。



打ち方ですが、まず半分より左側が45°の直線となるようにいくつかポイントを打って固定します。

次に、(256, 256)のポイントを(256, 0)に持っていきます。

最後に、(128, 128)より右側のカーブの度合いによって効果を調整します。


かける前とかけた後の比較です。


この方法は、微光星を削るというよりは微光星のみ暗くするといった効果が得られます。

微光星の輝度値は他に写っている星雲などの輝度値と近いことが多いので微光星のみ暗くできるのはなにかと便利です。

少々複雑ですが、ハイパスフィルターの値やトーンカーブの形状によって効き方を調整できるので一番自由度が高い方法だと思います。

ただ、強くかけすぎると微光星が暗くなりすぎてしまい、微光星がただの丸い模様のようになり違和感の原因になります。

画像に与えるダメージは小さいので、僕は強調処理の間でも微光星がうるさいなと感じたときに都度かけています。

「Camera RAW」フィルターの「テクスチャ」スライダー

Camera RAWのテクスチャスライダーは少し前に新しく追加された機能です。

ローカルコントラストの調整ができる点は以前にもあった明瞭度と似ていますが、テクスチャは全体的な輝度や色を維持してくれます。

また、明瞭度は全体的に星がベタっとしてしまうのに対して、テクスチャは星の粒状感を残したまま抑えられる印象があります。

 [フィルター]→[Camera RAWフィルター] でCamera RAWを開き、テクスチャと明瞭度のスライダーをマイナスに振ります。



かける前とかけた後の比較です。


この方法は星の周りのコントラストを落とし、微光星のギラつきを抑えるような効果があります。

使い方はシンプルですがその分効果も薄い方法で、つい強くかけすぎるとピンボケしたようにのっぺらとした感じになってしまうので、僕は処理の最後のほうに仕上げとして少量かけることが多いです。

スターレス画像から

アマチュア天体写真界隈には、写真に写っている星を全て消去して星雲のみの画像にしようという試みがあります。

少し前に話題になったStarNet++もその試みの一つですね。
そこで培われたきた手法を応用して微光星を除去します。

まずは、スターレス画像を作成します。StarNet++を使ってもいいですが、今回はPhotoshopを使った簡単な方法を一つ紹介します。

 [フィルター]→[ノイズ] の中にあるダスト&スクラッチというフィルターを使います。



まず画像レイヤーを複製し、複製したレイヤーにダスト&スクラッチを次の順番と設定で複数回適用します。

1. 半径 : 12, しきい値 : 100
2. 半径 : 10, しきい値 : 80
3. 半径 : 8, しきい値 : 60
4. 半径 : 6, しきい値 : 40
5. 半径 : 4, しきい値 : 20
6. 半径 : 2, しきい値 : 10
7. 半径 : 1, しきい値 : 5

処理後の画像が下のようになります。



明るい星や天の川の辺りは残ってますが、大体こんな感じで星を消すことができます。

最後にレイヤーの不透明度を任意の値に調整して元の画像とブレンドします。



かける前とかけた後の比較です。今回はスターレス画像のレイヤーを不透明度35%でブレンドしています。


一度微光星を完全に消去した画像とブレンドするので効果も強力です。

しかし、星を消すときに星雲部に全く影響が無いわけではなく、少なからずディテールが失われることになるので、僕は画像処理の最後の最後に使うようにしています。

効果的な使い方

ここまで基本的な使い方について説明しましたが、どの方法にも「何か加工が入ってるなという違和感」とも言うべき副作用が存在します。

そこで、その副作用を低減する方法についていくつか紹介します。

複数回に分けてフィルタをかける

いきなり大きな変化のあるパラメータで処理をかけるのではなく、小さい変化の処理を複数回かける方がいい結果を得られる場合が多いです。

例えば明るさの最小値フィルターであれば、いきなり1.0pxでかけるのではなく0.2pxを数回かけるといった感じです。1回ではあまり効果が感じられなくても複数回かければ大きな値でかけたときと同等の微光星除去効果が得られ、副作用として見られる違和感は少なくなります。

例として明るさの最小値フィルターを1.0pxを1回かけた画像と0.2pxで6回かけた画像の比較が下の画像になります。

マスクやレイヤーの透過度で元画像とブレンドする

少しやりすぎたなと思ったときはレイヤーの透過度を調整することで元画像とブレンディングし、効き目を調整するのも効果的です。

他にも微光星を消す際には星雲にまで処理を及ばせる必要はないので、例えば星雲マスクを作ることで不必要な場所にまで処理が及ぶのを防ぐことができます。

まとめ

カメラレンズで星野写真を撮影すると直面しがちな微光星の抑制について、4種類の手法を紹介しました。

それぞれの手法の特徴、利点、欠点、僕のおすすめの使い方をまとめます。

1. 「明るさの最小値」フィルター
星を削るような効果。
[利点]実際に微光星の星像を小さくでき、効果が強力。
[欠点]微光星が合体してしまったり斑点模様が発生する。
[おすすめの使い方]画像処理の終盤に小さい半径値で複数回かける。

2. 「ハイパス」フィルター
微光星のみ暗くする効果。
[利点] 処理の自由度が高く、画像へのダメージが相対的に小さい。
[欠点] 強くかけると画像全体がのっぺりする。
[おすすめの使い方] 強調処理の間に微光星が目立ってきたと思ったらその都度弱めにかける。

3. 「Camera RAW」フィルター
ローカルコントラストを下げ微光星のギラつきを抑える効果。
[利点] 処理が簡単で直感的。
[欠点] 効き目が弱い。強くかけるとピンボケのような芯のない感じになる。
[おすすめの使い方] 画像処理の終盤に隠し味的な意識でかける。

4. スターレス画像から
星を暗くする効果。
[利点] 効果が強力。
[欠点] 星雲のディテールや背景宇宙の滑らかさも多少失われる。
[おすすめの使い方] 画像処理の最終盤で奥の手として使う。



どの手法も、パラメーターの与え方次第で処理後の見え方は大きく変わるので、効き目の大きさよりもどのような効き方をするのかを意識してもらえるといいかなと思います。

画像へのダメージの少なさ的には、

ハイパス → Camera RAW → 明るさの最小値 → スターレス

の優先順位で試してみるのがおすすめです。

撮影に使った機材や撮影対象によっても変わると思うので、いろいろ試してみて自分のスタイルに合う手法を模索してみてください。

他にもこんな方法あるよ!って方はコメントで教えていただけるととても嬉しいです!


この記事は、僕がAF-S NIKKOR 50mm f/1.8Gのカメラレンズで広角星野写真を撮り始めた頃に、当時知りたかったけどネット上にはあまり情報がなかった内容を思い出して書いてみました。

今現在、広角星野写真の画像処理で悩んでる方、これから撮ってみようと思ってる方の役に立てば幸いです。

それでは!

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